減圧鍋で、妻が肉じゃがを作った。
なんということだ、君は肉じゃがなどという家庭的な料理を作れる人だったのか。
     一応、私だって肉じゃがくらい作れる。けど、今、目の前に出されている肉じゃがは、
     明らかに違和感があるのだ。 
    
     柔らかくなるまで煮こまれたイモは、型崩れを起こしていて当然だ。
     型崩れなしで柔らかく煮込めるのは、高級料亭で何年も修行した職人か、プロの主婦のみ。
ところが、私の前に出された肉じゃがは、全く型崩れのしていない肉じゃがだったのだ。
     「煮えていないのでは?」という想いを口に出すと、それは喧嘩のもとである。
     「ごりっ」という食感を覚悟して、口にイモを放り込み、噛み砕く。
ほろっ。
うまい、うまい、特に芋に味がしみててうまい。やわらかい。
     普段、さほどおいしくなくても「おいしィーねー、最高だねぇー、お店出せるんじゃないの」などと、
     心のこもっていない賛辞を述べる私であったが、このときは違っていた。
     なにこれ、うまい!むしゃむしゃむしゃむしゃ。
     もうちょっと食べたいな。むしゃむしゃむしゃ。
     え、もうないの。また作ってよ。絶対だよ。すんげぇーうまかったよ!
     本気でうまかった。その後、食事における芋の比率があがった。
     コイツはイモが好きで、芋さえ食わせておけば大丈夫、と思われたのかも知れない。
トリックというか、単に減圧鍋を使ったのが効いているんだと思う。
     妻は「愛情を入れた」とかワケのわからないことを言っていたが、そんなことでは説明がつかない。
     減圧鍋だ。減圧鍋の「味しみこませ能力」なのだ。
    
     減圧状態によって、通常の何倍もの勢いで食材につゆの味などがしみこむのだろう。たぶん。
     それでいて、煮くずれせず、ガス・電気代もかからない。減圧鍋は、火を消した瞬間から減圧・味しみこませのプロセスが始まるからだ。もうコトコト煮込まなくてもいいのだ。
     私もなんか作ってみたい。
     ただ、妻がいるときに作ると、
     「とくに愛情を込めなくても、おいしい」ということが証明されてしまう。
妻がいない休みの日に、試してみるとしよう。