圧力鍋を買いたかった。
ものすごく堅いすじ肉や、石みたいなかぼちゃなんかをぶち込んで煮込むと、
とろっとろのふんわりやわらかな煮物と化してしまうという、夢の調理器具である。
それを妻に話したところ、あちこちで色々調べてきた妻はなぜか「減圧鍋」というのを買ってきた。
▲両手鍋方式の減圧鍋 ロップ・タック
減圧。
圧力をかけるどころか、減らしてしまうとは何事なのか。
圧力をかけることが攻撃なら、減圧は守備ではないか。攻撃こそ最大の防御。
がんがん圧力をかけて、食材が怖いくらいにホロッホロになる。それがいいのではないか。がんがんいこうぜ。
まあ、でも、話くらいは聞いてやってもよい。
減圧鍋の原理はこういうことらしい。
鍋には、特殊な弁がついたフタが付属。中の空気はでていくけど、外の空気は入ってこないようになってる。
また、フタはスキマなく鍋にフィットするよう、特殊なゴムパッキンがついている。
煮込んでいくと、何が起こるか。
特になにも起こらない。ええっ?
火を止めた状態から減圧が始まり、最終的には鍋内が圧力が非常に少ない空間になると言うのだ。
そして、空気を全て吸いだされた食材は味がしみまくり、柔らかくなる。
本当かな。でも感覚的には、火を止めて熱が冷めていくと、だんだん圧力も弱くなっていってしまうような気がする。
そういうこざかしいアイテムは、結局中途半端な状態で終わる気がするのだ。
豚肉をさっといため、かぼちゃを適当に切ったものを鍋にぶち込み、水を入れて沸騰させた。
沸騰したなと思ったら、すぐに、ふたをして火を止める。
15分ほど放置。
ふたは耐熱ガラス性なので、中が見える。
減圧の結果、かぼちゃが5倍程度まで膨らんでいて、ひいいっ、こわいよう、という状態になっていたらいいのにと思ったが、
そういうおもしろいことも特になかった。
日常にそういうおもしろいことを求めてしまうのは、私の悪い癖だ。
熱も冷めてきたころ、フタについている弁をゆるめる。
シュォオオーッ!とすごい勢いで空気を吸う音が聞こえた。
減圧が解除され、空気が鍋の内部に流れ込んだのだ。
SF映画の、宇宙船に出てくる減圧室が思い出された。
真空と、空気のある部屋の間にある、アレだ。
減圧という言葉は、そういえばSF映画でしか聞いたことないなあ。
果たして、
かぼちゃは、きれいな姿のまま、そこにいた。
柔らかくなっている気がしない。
ほうら、見たことか。
圧力鍋ならば、もう煮くずれてどろっどろにやわらかくなりました!というわかりやすい姿になっているはずなのにだ。
鼻で笑いながら、私はかぼちゃをひとかけら食べてみた。
ほーら、火が通ってなくて、ゴリッ…
おっ?
ちゃ、ちゃんとやわらかくなってる!
あの短い加熱時間で、やわらかくなっている!
い、いや、だって、沸騰したのは一瞬で、あとは火を止めていたのに!
とても納得がいかないが、
キレイな姿を保ちつつ、柔らかく煮こまれたかぼちゃが目の前にあるのだ。これは事実だ。
しかも、加熱せずに調理したのでアクなども出ていない。
いやいやいやいや。
かぼちゃは柔らかく出来たみたいだけど、
超カタいすじ肉なんかはきっと無理だろう。うん、絶対無理だ。
いや、でももしかして…
ふ、ふん、思ったよりもやるようだが、私はまだ減圧鍋の実力を認めたわけではないからな。
次回は、超かたいスジ肉を煮込んで、減圧鍋の実力を確かめてやろうと思う。