妻が歌劇「ドン・パスクワーレ」について調べていた。
パスクワーレは、莫大な資産を持つ老人である。
彼は、年甲斐もなく、若い花嫁を探していた。
「金持ちのじじいが若い嫁を探す話か」
自ら跡継ぎを作ろうとしていたのだ。
というのも、唯一の血縁関係にある甥のエルネストが、どこの馬の骨ともわからない未亡人にうつつを抜かし、とても自分の跡を継がせられないからだ。
だが、こんな老人の花嫁になろうという、若い女など、居るわけがなかった。居るわけがないのだが、若い花嫁はあっさりと見つかった。
若くて、貞淑で、世間知らずな生娘。彼が探していた若い花嫁が、現実となって目の前に現れたのだ。
「んー、金で釣ったのかな」
パスクワーレは、友人のマラテスタに心から感謝した。パスクワーレの侍医でもあるマラテスタに、若い花嫁を探している、と相談したところ、この女を紹介してくれたというわけだ。
彼女はマラテスタの妹で、修道院から出てきたばかりなのだという。
「あ、だめだ登場人物がいきなり増えてワケわかんなくなった」
しめしめ、この世間知らずの女をうまく騙して、元気な跡取りを産ませよう。頼りない甥のことなど知るものか。パスクワーレは、光り輝く未来を想像して、身震いしていた。
だが、資産家の老人が騙そうとしている女は、貞淑でも、世間知らずでもなかった。ましてや、修道院など入ったこともない。彼女はマラテスタとグルになってパスクワーレを計略にかけようとしていたのだ。
彼女こそが、エルネストと恋仲にある未亡人、ノリーナだった。
「んー、そうなのかー、それは大変だ―」
私は急用を思い出したふりをして、妻の読んでいた本を閉じ、その場を去った。